内幸町のルンペン

西新橋交差点、三田線内幸町近くのフォルクスの横に、昔閉じた喫茶店らしき場所があり、いつもそのシャッターの前には腰を折り曲げながらじっと同じ場所に立ち続けるルンペンがいた。いた、と過去形なのはこの間ふとそこへ行くと花が手向けられていたからだ。彼はもうこの世から居なくなってしまった。
彼に気付いたのは夏頃。近くの得意先へ毎日通う事になり、新橋駅方面から西新橋へ歩いて行くと悪臭が漂ってくるのだ。そこを通るには常に呼吸を止めなければいけない。何か壊死した様な臭いが漂っていた。
ただ、不思議な事に近くの店も、閉じた店の所有者も何も言わない。またはいくら言ってもそこに戻ってくるのか。真夏のくだらない暑さも、気付けば木枯らしとともに冬となり、街の騒めきとともに年が明け、2月になってもそこに立ち続けていた。
腰を折り曲げる、と書いたがどちらかと言うと背中から曲がっていた。病気だったのだろうか。逆U字に立ちながら、そこを行き交う何万の人を、その足音だけ聞いていたのだ。いつしかその逆U字が当たり前のオブジェのような、永遠に続く光景に思えて、息を止めるのもそれは必然の、単なるリズムなのだと思って過ごしていたが、ふと、その沢山手向けられた花々や、置かれているタバコ、ジュース。それらを見ると涙が流れてきて、その日はそのまま街で1人で飲んだ。毎日に入り込んで、そこを支配し、ふといなくなると言うこと。全ては永遠ではないのだった。